黒猫と魔女|結び付きは後から作られた

黒猫と魔女の結び付きを語る西洋の版画の雰囲気

結論から。「黒猫は魔女の使い」という結び付きは、ある時点で一気に成立したものではなく、複数の要素が後から重なって固まったものです。
ヨーロッパの記録に、魔女とされた人物に付き従う動物(使い魔)が現れることは知られています。ただし、そこに挙げられる動物は猫に限りません。犬、ヒキガエル、小動物など、記録によってさまざまです。
「黒い猫」に限定された定型として広まったのは、近代以降の文学・挿絵・行事の図像を通じてという見方が有力です。ただし、この経緯にも諸説があります。
以下、確かめられること・確かめられないこと・日本での扱い・断定的な説明を読むときの注意まで整理します。

CULTURE

目次

結論:後から固まった

「黒猫は魔女の使い」という説明は、あまりに広く知られています。
そのぶん、いつ・どこで成立したのかを問われることが少ない話でもあります。

実際には、これは一枚岩の伝承ではありません。
異なる時代・地域の要素が、後から一つの型にまとめられたものと見るほうが、資料の状況に合います。

POINT

「黒猫と魔女」の話は、どこまでが記録で、どこからが後世の整理かを分けて読んでください。
分けずに読むと、断定的な説明をそのまま受け取ることになります。

分かること 分からないこと
魔女裁判の記録に動物が現れる例がある それが常に猫だったか
猫を不吉とする言い伝えが各地にある いつ黒に限定されたか
近代の文学と挿絵に黒猫が繰り返し現れる どの作品が定型を決めたか
行事の図像として定着している 定着の正確な時期
地域によって黒猫の扱いが逆になる 反転が起きた経緯
黒猫と魔女の結び付きを語る西洋の版画の雰囲気
どこまでが記録で、どこからが後世の整理か。

「使い魔」は黒猫に限らない

ヨーロッパの魔女裁判の記録には、告発された人物に付き従う動物が現れることがあります。
いわゆる「使い魔」と呼ばれるものです。

記録に現れる動物 備考
よく知られているが、唯一ではない
同様に記録がある
ヒキガエル 地域によって多く現れる
小型の齧歯類 家に住み着く動物として
記録により異なる

つまり、猫は候補の一つではあっても、専属ではありませんでした。
「黒い猫」に絞られた定型は、記録そのものより後の段階で生まれたと考えるほうが自然です。

なぜ猫が選ばれやすかったか

  • 家のなかにいて、人の生活圏と重なっていた
  • 夜に動き、目が光る。暗がりでの印象が強い
  • 飼い主の指示で動かず、行動が読みにくい
  • 一人暮らしの高齢者が猫と暮らす例が多かったとされる
  • 黒は闇と結び付けやすい色だった

これらは、猫が選ばれやすい条件を説明はします。
ただし「だからそうなった」と断定できる材料ではありません。同じ条件は他の動物にも部分的に当てはまります。

出典
明治期以降に翻訳された西洋の文学作品や、その挿絵を収めた出版物は、国立国会図書館デジタルコレクションで公開されています。黒猫の図像が日本にどう入り、どう受け取られたかは、こうした一次資料で確かめられます。国立国会図書館デジタルコレクションより。

定型が固まったのは近代以降

今わたしたちが思い浮かべる「とんがり帽子の魔女と黒猫」の絵。
この組み合わせは、比較的新しいものです。

要素 役割
近代の文学作品 黒猫を不吉な存在として繰り返し描いた
挿絵・版画 言葉ではなく図像として広めた
季節行事の装飾 毎年同じ図像が反復される
絵本・児童書 子どものうちに型として入る
映画・アニメーション 動く図像として定着させた
商品のパッケージ 説明なしで通じる記号になった

いちばん効いたのは、図像の反復だと考えられます。
文章は読まれなければ伝わりませんが、絵は見た瞬間に伝わり、毎年同じ季節に繰り返されます。

そして図像は、細部を落として単純化されます。
「使い魔にはいろいろな動物がいた」という幅は、絵に描くときに真っ先に落ちる情報です。

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NYXARIA / ブラックキャット シルエット スカーフ

背を丸めた黒猫の輪郭だけを、墨色の細い線で一つ。
記号として消費されてきた図像を、装いに戻すための一枚です。

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日本での黒猫は別の系統

日本での黒猫の扱いは、ヨーロッパの文脈とは別に発達しました。

扱い 内容
夜目が利く 暗がりでも動けるとして重宝された
鼠を捕る 蚕や穀物を守る役割
福を招く 招き猫には黒もあり、厄除けとされる
不吉とする言い伝え 地域によっては存在する
近代以降 西洋の図像が翻訳を通じて入る

黒い招き猫が厄除けとして扱われることは、よく知られています。
つまり日本では、黒猫を不吉とする見方と、福をもたらすとする見方が併存してきました。

「黒猫=不吉」という理解が広く共有されるようになった背景には、近代以降に入ってきた西洋の図像の影響を指摘する見方があります。
ただし、これも定説として確定しているわけではありません。

地域で反転する例

  • 同じ黒猫が、地域によって幸運の象徴とされることがある
  • 航海に関わる地域では、船の黒猫を吉兆とする言い伝えが伝わる
  • 不吉とする地域と吉とする地域が、近接して存在することもある
  • 反転が起きた経緯は、多くの場合たどれない
  • 「昔から不吉だった」という説明は、地域を限定しないと成り立たない
日本で福を招くとも扱われてきた黒猫
日本では、不吉とする見方と福とする見方が併存してきた。
図像として反復されてきた挿絵
絵は見た瞬間に伝わり、毎年繰り返される。

断定的な説明を読むときの注意

この話題は、断定的な説明が流通しやすい領域です。

よく見る書かれ方 読み方
「中世から黒猫は不吉とされた」 どの地域か、が抜けている
「教会が猫を迫害した」 出典と範囲の確認が要る
「ペストが広がった原因になった」 因果として断定できる資料は限られる
「魔女は必ず黒猫を連れていた」 記録には他の動物も現れる
「〜という説がある」 誠実な書き方であることが多い

調べたいときの手順

  • その説明が、どの地域・どの時代の話かを確認する
  • 出典が示されているか、示されていれば何かを見る
  • 一次資料(記録・図像)にあたれるものは、あたる
  • 紹介するときは「〜という説がある」と書く
  • 断定して書かれた情報ほど、根拠までさかのぼる

この結び付きが後から固まったものだとしても、話がつまらなくなるわけではありません。
むしろ、図像が事実を上書きしていく過程そのものが読みどころになります。

黒猫は、何かの象徴として選ばれ続けてきた動物です。
選ばれた理由が一つに決まらないことが、その証拠でもあります。

よくある質問

POINT

覚えておくと整理しやすいのは「使い魔は猫に限らない」「黒に絞られたのは後の段階」。
この2点で、断定的な説明の多くは相対化できます。

黒猫が魔女と結び付けられたのはなぜですか?

一つの理由に絞ることはできません。ヨーロッパの魔女裁判の記録には、告発された人物に付き従う動物が現れますが、そこに挙げられるのは猫だけでなく犬やヒキガエル、小動物など記録によってさまざまです。猫は家のなかにいて夜に動き、行動が読みにくいといった条件から選ばれやすかったと説明されますが、断定できる材料ではありません。

「黒猫と魔女」の組み合わせはいつ定着したのですか?

正確な時期は特定できませんが、近代以降の文学作品や挿絵、季節行事の装飾を通じて図像として固まったという見方が有力です。図像は言葉と違って見た瞬間に伝わり、毎年同じ季節に反復されます。そして絵に描くときには細部が落ちるため、「使い魔にはいろいろな動物がいた」という幅が真っ先に失われます。

日本でも黒猫は不吉とされてきたのですか?

不吉とする言い伝えは地域によって存在しますが、同時に福をもたらすとする見方も併存してきました。夜目が利くとして重宝され、鼠を捕る役割も担っていました。黒い招き猫が厄除けとして扱われることもよく知られています。「黒猫=不吉」という理解が広まった背景に近代以降の西洋の図像の影響を指摘する見方もありますが、定説ではありません。

この話題の説明を読むときの注意点は?

その説明がどの地域・どの時代の話かを確認してください。「中世から黒猫は不吉とされた」といった書き方は、地域が抜けていることが多くあります。同じ黒猫が地域によって幸運の象徴とされる例もあり、近接した地域で扱いが逆になることもあります。出典が示されているかを見て、断定的なものほど根拠までさかのぼってください。

まとめ

黒猫と魔女の結び付きについて、言えることの整理です。

  • 使い魔:記録に現れる動物は猫に限らない
  • 黒への限定:記録より後の段階で生まれたとみられる
  • 定着:近代以降の文学・挿絵・行事の図像による反復
  • 日本:不吉とする見方と福とする見方が併存してきた
  • 読み方:地域と時代を確認する。断定的な説明ほど根拠を見る

黒猫が象徴として使われ続けてきたのは、意味が一つに定まらなかったからです。
不吉にも福にも読める。だから、どの時代でも使えました。

「昔からこうだった」という説明は、たいてい地域を一つに絞れば成り立ちます。
絞らないまま語られているときは、そこを疑うところから読み始めてください。

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