「モルモット」という呼び名は、16世紀にオランダ人がこの動物をリス科のマーモット(marmot)と取り違えたことに由来するとされます。日本には江戸時代後期の1843年、オランダ人が長崎へ持ち込んだのが始まりとされ、和名は「天竺鼠(テンジクネズミ)」です。英語の guinea pig は、豚に似た体つきと鳴き声から pig、guinea の部分は諸説あって定説がありません。
原産地は南米のアンデス周辺です。それなのに、日本語ではマーモットと混同した名前で呼ばれ、和名にはインドを指す「天竺」が入り、英語ではアフリカの地名が付いています。どの名前も、この小さな動物が生まれた土地とは別の場所を指している。名前の由来をたどると、モルモットが海を渡ってきた道筋がそのまま見えてきます。
目次|気になるところから読む
モルモットの名前の由来|3つの呼び名を先に整理
モルモットには、日本語の通称、和名、英語名、学名と、いくつもの呼び名があります。それぞれの由来を一覧にすると、混乱しやすい点がはっきりします。
- モルモット(通称)
- 由来:オランダ語の marmot(または marmotje)
背景:16世紀にオランダ人が、リス科のマーモットと取り違えて伝えたとされる - テンジクネズミ/天竺鼠(和名)
- 由来:「天竺」は外国・遠方・舶来を表す造語要素
背景:インド原産という意味ではない。原産地は南米 - guinea pig(英語名)
- 由来:pig は豚に似た体形と鳴き声から。guinea は諸説あり
背景:英語での記録は1660年代。南米の動物でギニア産ではない - Cavia porcellus(学名)
- 分類:テンジクネズミ科
背景:辞典や図鑑で用いられる正式な学名
共通しているのは、どの名前も原産地の南米を指していないことです。ヨーロッパに渡り、オランダ人の手で日本に届き、英語圏ではアフリカの地名と結びついた。名前の一つひとつが、運ばれてきた経路の痕跡です。
「モルモット」はオランダ語|マーモットとの取り違え
精選版『日本国語大辞典』は、「モルモット」をオランダ語の marmot に由来する語とし、南米産のテンジクネズミをヨーロッパ産のマーモットと誤認したことが起源だと説明しています。『デジタル大辞泉』も「16世紀にオランダ人がリス科のマーモットと混同し、誤って伝えたことによる名」と記しています。
『日本大百科全書(ニッポニカ)』の「テンジクネズミ」の項では、語源をオランダ語の marmotje としています。marmot に縮小の意味を持つ語尾が付いた形です。辞典によって元の綴りの示し方は違いますが、「オランダ人がマーモットと取り違えた」という筋は共通しています。
モルモットとマーモットは別の動物
名前は似ていても、2つはまったく別の動物です。違いを並べると、取り違えが起きた事情も想像しやすくなります。
- モルモット(テンジクネズミ)
- 分類:テンジクネズミ科
原産:南米
名前の由来:マーモットとの混同による通称 - マーモット
- 分類:リス科
補足:ニッポニカは、オランダ人がユーラシアのリス科の動物マーモットと取り違えたと説明している
ずんぐりとした体に短い脚、丸い耳。ヨーロッパの人々にとって見慣れない南米の動物が、身近なマーモットの仲間に見えたとしても不思議はありません。その取り違えが、そのまま日本語の名前として定着しました。
日本への渡来は1843年、長崎へ|和名「天竺鼠」の意味
江戸時代後期、オランダ人が長崎へ
足立区生物園の解説によると、モルモットが日本に来たのは1843年(天保14年)で、鎖国下の長崎にオランダ人が持ち込んだのが始まりとされています。『日本大百科全書(ニッポニカ)』も、日本には19世紀中ごろに輸入されたと記しています。
ヨーロッパへ渡ったのは16世紀。日本に届くまでには300年近い開きがあります。南米からヨーロッパへ、ヨーロッパからアジアの港へ。モルモットは、大航海時代の交易路をゆっくりと移動してきた動物です。
「天竺」はインドではなく「遠い外国」
和名のテンジクネズミ(天竺鼠)にある「天竺」は、もとはインドの古い呼び名です。ただし、天竺鼠の天竺はインドそのものを指していません。
精選版『日本国語大辞典』は、「天竺」の造語要素としての用法を「ヨーロッパ人の日本渡来後、語にそえて、外国、遠方の地、舶来などの意を表わす」と説明し、例として「天竺牡丹」「天竺鼠」を挙げています。『デジタル大辞泉』も、接頭語的に遠方・外国・舶来の意を表すとして、同じ2語を例示しています。
足立区生物園の解説も、当時の日本では「天竺」が遠い国を指す言葉として使われていたため、この名が付いたと考えられるとしています。つまり天竺鼠は「インドのネズミ」ではなく、「遠い外国から来たネズミ」。原産地を正確に示す名前ではなく、舶来の珍しい動物だという驚きを表した名前です。
- 天竺鼠(テンジクネズミ)
- 意味:外国から来たネズミ
実際の原産:南米 - 天竺牡丹
- 意味:外国から来たボタン
同じ用法の例として辞典に挙がる語
英語でguinea pigと呼ぶ理由|pigとguineaの諸説
英語名の guinea pig は、二つの語に分けて考えると整理しやすくなります。
pig は体形と鳴き声から
pig の部分は、比較的説明が揃っています。『日本大百科全書(ニッポニカ)』は、英名は体形と鳴き声が豚に似ていることによるとしています。米ハワイ州のホノルル動物園の解説も、丸くずんぐりした体と豚のような鳴き声に由来する可能性が高いとしています。英語の語源辞典 Online Etymology Dictionary も同じ方向で、pig はおそらく鳴き声に由来するという立場です。
guinea は諸説あり、定説はない
難しいのは guinea のほうです。Online Etymology Dictionary は、英語での記録が1660年代にさかのぼるとしたうえで、この動物はギニアから来たわけではないと明記し、次の説を挙げています。
- ギニア航路の船説:イングランド、ギニア(西アフリカ)、南米を結ぶ三角貿易の船(Guinea-men)で運ばれたため。ホノルル動物園の解説も、初期の個体がギニアと結びついた船で南米からイングランドへ渡ったという見方を紹介しています。
- ギニアの豚との類似説:ギニアの豚(Guinea-hog)の子に似ていたため。ホノルル動物園も、ギニアのやぶ豚の子との類似に触れています。
- ガイアナとの混同説:南米のガイアナ(Guiana)とギニアを混同したため。ニッポニカはギニアをガイアナの誤りとする見方を記しています。一方、Online Etymology Dictionary は、オックスフォード英語辞典がこの説に否定的だと紹介しています。
pig は見た目と声から、guinea は遠い交易の記憶から。英語名にもまた、原産地の南米ではない土地の名が残りました。日本語の「天竺」と同じく、「どこか遠くから来た動物」という感覚が名前に刻まれています。
アンデスからヨーロッパへ、そして「実験台」の比喩へ
アンデスで家畜化された動物
2020年に学術誌 Scientific Reports に掲載された古代DNAの研究(Lord ほか)は、既存の考古学研究として、モルモットが中央アンデスで紀元前6000年から2000年の間に家畜化されたとする見方を紹介しています。同じ研究は、コロンビア東部の高地に別の家畜化の中心があった可能性も示しました。
ニッポニカも、南米のコロンビアからガイアナにかけての地域で食用の家畜として飼われていたと記しています。名前が指し示す天竺やギニアではなく、南米の高地こそがモルモットの原点です。
16世紀、ヨーロッパへ
同じ2020年の研究によれば、ヨーロッパで見つかった最古のモルモットの骨は16世紀後半のものです。ベルギーのモンス(1550〜1640年)とイングランドのヒル・ホール(1574〜1575年)の2か所です。
モンスの出土例を報告した2012年の論文(Pigière ほか、Journal of Archaeological Science)は、この個体を16世紀末から17世紀初めのものと確定し、南米の征服後まもなくモルモットがヨーロッパへ持ち込まれたことを裏づけるとしています。さらに、モルモットは一部の上流階級だけでなく複数の社会階層の手に届く動物だったと論じ、それがヨーロッパでの急速な広がりを説明すると述べています。
実験動物から「実験台」の比喩へ
やがてモルモットは実験動物としても使われるようになります。Online Etymology Dictionary によれば、1865年までには医学実験で広く使われ、「実験の対象となる人」という比喩的な意味の初出記録は1920年です。
日本語でも同じ比喩が生まれました。精選版『日本国語大辞典』は「モルモット」に実験台とされる人の意味を載せ、島崎藤村『家』の用例を挙げています。世界大百科事典は、現在では実験動物の代名詞のようになっていると記しています。
ただ、名前の歴史を通して見ると、比喩の意味はモルモットの長い歩みのほんの一部です。アンデスの暮らしの中で育ち、海を渡って愛玩され、遠い国の名を付けられてきた動物。その全体像を知ると、「モルモット」という言葉の印象も少し変わります。
名前の旅を知ってから選ぶ、モルモットのモチーフ
モルモットの名前には、遠い土地への想像が何層も重なっています。天竺、ギニア、マーモットの国。実際の故郷はそのどれでもない南米の高地です。モチーフとしてモルモットを選ぶとき、この「遠くから来た動物」という物語は、絵柄の見え方に奥行きを足してくれます。
NYXARIAのAW26コレクション「NOCTURNE」には、モルモットを描いた2型があります。どちらも夜の静けさをテーマに、モルモットを愛らしいキャラクターではなく、絵の中の存在として描いています。
NOCTURNE BLOOM GUINEA
深いブルーと淡いピンクの花影から、モルモットが静かに姿を現す水彩の一枚です。花とモルモットを一体化させ、裾へ流れるアシンメトリーな配置にしています。遠い国から来た動物が、見知らぬ花の陰からのぞいている。そんな情景として眺めることもできます。フロントプリント、¥3,500(税込)。
NOCTURNE EDEN GUINEA
モルモットと禁断の果実を組み合わせた両面プリントです。フロントはブランドサインを控えめに置き、バックを主役にしたストーリー性のある設計。楽園の名を冠したこの一枚は、故郷から遠く運ばれてきた動物に、もう一つの物語の舞台を与えています。両面プリント、¥4,500(税込)。
2型の絵柄と配置の違いは、モルモットTシャツ、EDENとBLOOMの違いを比較で詳しく比べています。
モルモット好きに贈るなら
モルモットと暮らしている人や、モルモットが好きな人への贈り物にするなら、名前の由来は会話のきっかけになります。「モルモットはマーモットの勘違いから付いた名前」「天竺鼠の天竺は遠い外国という意味」。由来を一言添えるだけで、絵柄に込めた意図が伝わりやすくなります。
サイズはS〜3XL、カラーはBlack・Navy・Sport Grey・Whiteの4色です。ボディはGildan 64000(ユニセックス/レギュラーフィット)で、身幅はSの45.7cmからサイズが上がるごとにおよそ5cmずつ広がります。相手のサイズが分からないときの考え方はモルモット好きへのプレゼント|サイズを聞けない相手へのTシャツ選びにまとめています。受注生産のため、お客様都合による返品・交換はできません。
よくある質問
- モルモットとマーモットは同じ動物ですか?
- 別の動物です。モルモットはテンジクネズミ科、マーモットはリス科に属します。16世紀にオランダ人が両者を取り違えたことが、「モルモット」という名前に残ったとされます。
- 天竺鼠と呼ぶのは、インド原産だからですか?
- いいえ。「天竺」はヨーロッパ人の渡来後、外国・遠方・舶来の意味で語に添えられた言葉です。モルモットの原産地は南米です。
- 英語でguinea pigと呼ぶのはなぜですか?
- pig は豚に似た体形と鳴き声からとされます。guinea は、ギニア航路の船で運ばれた説、ギニアの豚に似ていた説、南米のガイアナとの混同説などがあり、定説はありません。
- モルモットはいつ日本に来ましたか?
- 1843年(天保14年)に、オランダ人が長崎へ持ち込んだのが始まりとされます。辞典では19世紀中ごろの輸入と記されています。
- 「モルモット=実験台」という意味はいつからですか?
- 英語では、実験の対象となる人という比喩が1920年に記録されています。日本語でも島崎藤村『家』に用例があり、辞典にこの意味が載っています。
モルモットの名前は、海を渡った道筋の記録
「モルモット」はオランダ人の取り違え、「天竺鼠」は遠い外国から来たという驚き、「guinea pig」は豚に似た姿と遠い交易の記憶。どの名前も、南米の高地から海を渡ってきた経路のどこかで付けられたものです。
原産地とは別の土地の名ばかりを背負った動物は、そう多くありません。名前の由来を知ると、モルモットが「どこか遠くから来た、小さな旅人」に見えてきます。その物語ごと好きになれるなら、身につけるモチーフとしても、きっと長く付き合える存在です。
モルモット・動物モチーフのTシャツを見る参考資料
- 精選版 日本国語大辞典・デジタル大辞泉・改訂新版 世界大百科事典「モルモット」https://kotobank.jp/word/%E3%82%82%E3%82%8B%E3%82%82%E3%81%A4%E3%81%A8-3173421
- 日本大百科全書(ニッポニカ)「テンジクネズミ」https://kotobank.jp/word/%E3%83%86%E3%83%B3%E3%82%B8%E3%82%AF%E3%83%8D%E3%82%BA%E3%83%9F-102347
- 精選版 日本国語大辞典・デジタル大辞泉「天竺」https://kotobank.jp/word/%E5%A4%A9%E7%AB%BA-102341
- 足立区生物園「モルモットって?」https://seibutuen.jp/special/mottomotto/what_mol.html
- Honolulu Zoo “Guinea Pig” https://www.honoluluzoo.org/guinea-pig/
- Online Etymology Dictionary “guinea pig” https://www.etymonline.com/word/guinea%20pig
- Lord, E. et al. (2020) “Ancient DNA of Guinea Pigs (Cavia spp.) Indicates a Probable New Center of Domestication and Pathways of Global Distribution”, Scientific Reports 10:8901 https://pmc.ncbi.nlm.nih.gov/articles/PMC7264122
- Pigière, F. et al. (2012) “New archaeozoological evidence for the introduction of the guinea pig to Europe”, Journal of Archaeological Science 39 https://biblio.naturalsciences.be/library-1/rbins-staff-publications/articlereference.2013-01-24.6381873968
- NYXARIA「サイズガイド」/pages/size-guide

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